MBE法によるGaN結晶成長

プラズマ援用MBE

【GaN結晶成長】
・GaN成長メカニズム
 一般的にPAMBEでは原子状窒素の多いハイブライトネスを使用する。セル内で励起活性された窒素種はアパーチャを通って基板に到達し、窒素量に応じて成長速度が決まる。アパーチャの穴を大きくすれば、基板に到達する窒素量が増えるので成長速度の増大が可能であるが、分子窒素など欠陥発生要因となる粒子も通過し易くなってしまう。論文にある窒素プラズマの光学測定結果≠基板に到達した粒子数であることに注意。
 セルから放出されたプラズマ状窒素は、基板に到達すると失活し窒素原子となり、運動エネルギーを急速に失って、表面原子と弱く結合する。表面に到達して運動エネルギを失った窒素原子は、吸着層内でサイト交換によって取り込まれ、GaNを生成する。基板から供給される熱エネルギにより、表面原子結合のポテンシャルを乗りこえながら表面上を拡散するので、基板温度がkineticsを決める重要な要素となる。

・最適なGaN成長条件 
 GaNはGa過剰条件が、結晶性および表面平坦性に最も良いとされる。Ga過剰条件ではGaN表面にGa表面吸着層を形成し、吸着原子の拡散距離を高めることができる。低温成長では表面にGa dropletが多量に発生し、デバイス作製時に漏れ電流の発生要因となる。Ga dropletからの金属Gaの蒸発は、温度に対して指数関数的に蒸発量が増加するため、高温領域ではGa過剰条件でもdropletが表面にできない。一方で、成長温度が高すぎるとGaNが分解して表面荒れが大きくなる。高温で表面平坦性を維持するには、主に表面から脱離する窒素を多く供給すればよい(高温では窒素過剰条件が良い)。到達した窒素原子が全て取り込まれるわけではなく、一部は他の窒素原子と結合して窒素分子となり、表面から蒸発する。
 GaNデバイス作製には、このGa過剰かつdropletがない領域がベスト。Ga dropletが発生するかしないかくらいのGaセル温度に調整する。この領域で成長後にGaおよび窒素を止めると、2原子層分のGa吸着層からのGa脱離により、RHEED強度がピークを一つ持つことを確認できる。他にも、この領域を見つける方法がある。窒素過剰条件では、表面荒れが大きく、Gaのフラックス量に応じて成長速度が上がる。Gaフラックス(ビーム等価圧力BEP)は、備え付けのビームフラックスモニタ(BFM)で測定できる。プラズマ出力と窒素流量一定のまま、GaのBEPを増やしても成長速度が上がらず、平坦な表面が得られれば、Ga過剰条件の所望の領域が得られている可能性が高い。もし平坦な表面が得られず、Ga dropletができるようであれば、成長温度を上げると良い。
 

・サーファクタントと3元混晶
 In-NよりもGa-Nの結合エネルギが大きいため、GaNの最適成長条件(InNにとっては高温)でGaとInを同時に照射した際、Gaが優先的に取り込まれる。この特性を利用して、InやSiをGaNのサーファクタントとして使うことで、表面平坦性を向上できる。Inの照射量は、Gaと同程度かそれより少ないくらいで良い。AlN成長時はGaがサーファクタントとなりうる。AlNの成長条件下で照射したGaは、成長表面に偏析して再蒸発する。
 InGaNを成長したい時は、成長温度と成長速度の両方を下げれば、Inが取り込まれやすくなる。AlGaNを成長したい時はAlのフラックス制御が重要になる。Alの含有率はAlのフラックスにほぼ比例する。AlGaN成長の条件出しの手順例は下記。
  1. AlNの条件出
  2. GaNの条件出
  3. GaNの成長条件でAlのフラックスを下げてAl, Ga, Nを照射

・ドーピングと選択成長 
 n型ドープにはSiまたはGeが用いられ、p型ドープにはMgが使われる。ドナー不純物としてSiが一般的だが、20乗台の電子濃度を得るにはSiよりもGeの方が良いとされる。Si濃度はSiのセル温度にほぼ比例するので制御し易い。高性能GaN HEMTを作るときは、チャンバー内部の酸素不純物に気をつける。なるべくメインチャンバに酸素を入れないよう、準備室において500度くらいでサンプルを加熱し、超高真空になるまで待ったほうが良い。
 n型化に比べてp型化はかなり難しい(詳細はコチラ)。GaN成長時には高濃度の窒素空孔が導入されがちで、折角取り込んだアクセプタが補償されてしまい、Mg濃度が高くてもアクセプタおよび正孔濃度が上がらない(右図参照)。MOCVDよりも低温成長であるMBEの方が、窒素空孔濃度が低減しやすい。しかし、PAMBEはGa過剰条件で成長するために窒素空孔が入りやすいだけでなく、表面荒れ・結晶性劣化も激しい。GaセルおよびMgセル温度を上げると、Mgが表面に偏析して取り込まれ難くなり、急峻なMgドープができない。一方で、Gaセル温度を下げると表面荒れが大きくなる。Mg取り込み量の成長速度依存性は小さい。GaNの半絶縁膜にはMgではなくCが使われることがある。
 高濃度SiドープGaNの選択再成長には、低温成長が可能なMBEが優位。SiO2膜を使えばMBEでも選択成長ができる。しかし、横方向成長速度はかなり遅いので、数um深さのトレンチの埋め込みにはMOCVDの方が優位。一方で、ナノワイヤのような縦方向成長のし易さは、MBEにとって大きなメリットの一つ。


【成長前準備】
・基板準備 
 再現性・定量性を得るためには、どこの温度(①試料表面、②基板、③サセプタまたはヒ―タ―の温度)を測定しているかを認識し、正確に温度設定することが重要になる。両面研磨の試料や、サファイヤなどの熱伝導率の低い試料を熱する場合は、他の基板よりも表面温度がかなり小さくなる可能性があるので、熱電対の表示温度に注意。②もしくは③の温度を表示している場合、なるべく試料表面に高効率で熱を伝える工夫をした方が良いかもしれない。③ではなく②を測定したい場合は、(1)試料裏面を荒らして輻射率を高める、(2)熱伝導率の高い金属(TiやMo)を試料裏面に蒸着するといった工夫を要する。

・パイロメータの設定 
 材料によって放射率が異なるので、測定波長を設定する必要がある。放射率が低い物質の時は、対象物に対して垂直方向から測定する。GaN裏面にTiを蒸着してemissibilityを0.63程度にする。例えば0.5にしてしまうと、真値より高く見積もられる。Mo蒸着は0.36、Si基板は0.6程度。
 Si基板の場合、Si基板上にAlを蒸着し、600度近くまで昇温。577CでAl-Siの共晶ができ、放射率が変化するので、変化点が577度になるように放射率を設定する。他の基板では、蒸着したAlは融解温度(660度)で黒くなるのが設定点。基板裏面は荒れている方(片面研磨)が良い。
 RHEEDを用いることで、金属Gaの蒸発温度から、各装置の温度を統一できる。Gaの照射量が多すぎると、Ga面では2ML以上の金属GaがGaN表面に吸着し、RHEED強度が落ちる。成長温度が低いと、Gaシャッタを閉じた時の強度の回復時間が長くなる。2〜4秒くらいで強度が回復する成長温度とGa照射量が、GaN成長において、dropetのない平坦表面の適正条件。

・プラズママッチングボックスの調整
 減圧一定下で、極板間に電場が発生した時、イオン化した原子は電子を放出。高周波電源による電場により加速された電子が、ガスとの衝突で二次電子を作り出しイオン化させる。電子はシース中の極板に衝突し負に帯電(自己バイアス)。質量の大きいイオンは交流電場に対応できず、電極に衝突。BOX内はLC回路で構成されており、バリコン二つを調整して反射を下げるが、片方はプラズマ負荷にのみ影響するので、まずは片方だけで大まかに調整する


アンモニアMBE

【GaN結晶成長】
・GaN成長メカニズム
 セルから放出されたアンモニアは、加熱された基板表面で分解し、水素と共に窒素原子が生成される(cracking)。窒素原子を別途照射したGaと結合させることで、GaN結晶が成長する。過剰のアンモニアや不純物をトラップするため、終日、液体窒素を流し続ける必要がある。また、使用し続けると、アンモニアが十分に取り込まれなくなり、チャンバ圧力が徐々に上昇してくるため、適宜(週1程度)、液体窒素シュラウドを室温に戻すことで、吸着したアンモニアを蒸発させる必要がある。

・GaN成長条件
 アンモニアをcrackingさせるためには、PAMBEよりも高い温度が必要となる(最低600度、標準で800度)。成長速度はGaの照射量で決まる(1um/h以上も可能)。アンモニア流量が多すぎると、成長速度が低下する。また、成長温度が高すぎる(950度以上)とGaNが分解し、成長速度が低下する。基板温度を上げる時は、アンモニアだけ流した状態にしておくと、表面平坦性を維持できる。
 ヒロックの形成(ESB効果)により、PAMBEよりも表面平坦性が悪くなる傾向にある。アンモニアの流量が多く、高温ほど、表面平坦性が良くなる。PAMBEでは、成長前の基板表面の窒化による表面荒れが問題となる場合があるが、アンモニアMBEでは窒素過剰条件で成長するので意識しなくて良い。むしろ、高温でアンモニアを照射することで、成長前表面を清浄化できる。

・ドーピングと3元混晶
 高温成長なのでPAMBEよりも不純物の取り込みが少ない傾向にある。アンモニアMBEでは窒素過剰条件で成長するため、正孔の補償となる窒素空孔などの点欠陥密度が少なく、p型GaN成長時に高濃度の正孔が得られやすい。また、MOCVDと違い、MBEで成長したGaN:Mgは、高温でのMg-Hの活性化処理が不要である。Mgセルを利用する際は、事前に250度以上で1時間ほどアウトガスをしておくとよい。成長条件とドーピング濃度の依存性を調べるときは、一度の成長で何層も積層した、SIMS stackを作ると安くすむ。1層あたり200nmあればSIMS測定では十分である。
 InGaN成長時は、低温かつアンモニア流量を高くした方が、Inを取り込みやすく、表面平坦性も良い。さらに低速成長が好まれる。AlGaN成長時には、Alセルの扱いに注意が必要である。室温に戻す際にチャンバ内圧が急激に上昇するため、Alセル温度を400度以下に下げておかないと、Alセルの坩堝が割れてしまう。Alセル温度の低下速度は毎分2度程度なので、シュラウドを室温に戻す際は計画的に。Al原料を少なめに充填しておくと坩堝の破壊防止になる。坩堝が割れるのは、降温時における熱膨張率差によるものなので、メンテナンスの際は、なるべくAl原料を空にする(1100度くらいまで上げて、全て飛ばす)。ひび割れに気付かずAlセルを660度以上に上げると、液体Alが流れ出し、セルが故障する。


参考サイト

以下、外部サイト。
【自力で組み立ててやるぜ!】
・装置自作時の参考資料・・・
・高真空装置の溶接・・・
・装置修理のコツ・・・
・装置改造時の注意・・・

【めんどい!金で解決じゃ!●:国内、○米国、△欧州
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